第4章 【直哉×無関心女中】
「……え?」
は目を見開き、言葉を失った。
「……どうして、そんなことを?」
の声は、どこまでも澄んだ困惑に満ちていた。
主が他の女を抱きながら自分の名を呼ぶ。
それがどれほど歪で、狂おしい執着の形なのか、深窓の裏側で育った彼女には想像もつかない。
直哉は、はだけた胸元を乱したまま、自嘲気味に鼻で笑った。
「……あの女、お前によく似ていたんや。お前よりずっと華美で、品もあった。やっと……やっとお前以上のええ女を捕まえたと思ったのに、抱いとる間中、お前の顔ばっかチラつきやがって」
直哉の言葉を、は静かに反芻した。
けれど、やはり理解が追いつかない。
「……新手の…嫌がらせみたいな物でしょうか」
「……はぁっ?」
直哉は、目の前の女の底知れない「無垢」に、ついに堪忍袋の緒が切れた。
自分が一ヶ月もの間、どれほど惨めに足掻き、血と酒と女に塗れて、それでも彼女を消し去れずにいたか。そのドロドロとした汚い感情を、叩きつけるように吐き出す。
「そんなわけあるか阿保。
ええか、よう聞け」
直哉は一歩踏み込み、彼女の両肩を指先が食い込むほどの力で掴んだ。
「お前を抱きたくて、でも、お前みたいな底辺の女に心動かされたことが許せんくて……! だから、お前によく似た、もっと価値のある女を見つけてきて抱いたんや。
そうやって代わりを抱いて、お前を抱いた気になろうとしとったんに……っ」
直哉の瞳が、至近距離でギラついた熱を帯びる。
「……間違えたんや。
その女を抱きながら、お前の名前を呼んでもうた。それくらい、俺の頭の中は……お前で…!」
告げられた言葉の暴力的なまでの質量に、はただ呆然と立ち尽くした。
肩を掴む直哉の手が、微かに震えている。
「……どうして、そんな……。」
直哉は彼女の肩に額を押し当てた。
あれほど「書き割り」だと蔑み、「代えのきく小道具」だと言い切ったはずの女。
その女一人を抱くために、他のどんな美しい女も必要ないと感じてしまっている自分。
その事実を認めることは、直哉にとって、これまで築き上げてきた傲慢な自分自身を殺すことと同義だった。
「…俺もわからんわ」
静かな廊下で、直哉の荒い呼吸だけが響いていた。