第4章 【直哉×無関心女中】
「……直哉様、そのようなお姿ではお風邪をひかれます。お部屋に戻られませ」
いつものように淡々とした、けれど自分を案じるその声。
直哉は自嘲気味に口角を歪め、視線を泳がせた。
「……今の女に、なんか言われたか?」
「いえ……。ただ、私の名前をご存知のようでした。
お会いしたことがないはずなのですが…」
が素直な疑問を口にすると、直哉は深く、重い溜息をついた。
彼は頭痛がするかのように押し当てていた片手を離し、濁った瞳で真っ直ぐに彼女を見据える。
「……俺が、呼んだからや」
「ご用でしたか、気が付かず申し訳ありません」
純粋に「呼び出された理由」を探ろうとする彼女。
掃除の続きか、あるいは他の仕事か。
そんな風に考えている無垢な瞳を見て、直哉の胸の奥が激しく掻き乱された。
「ちがう。……用があったわけやない」
直哉は一歩、詰め寄った。
彼から漂う酒の匂いと、先ほどの女の香水の残り香、そして狂おしいほどの執着が、に壁のように迫り来る。
「……あの女抱きながら、お前の名前を呼んだからや」
絞り出すような、告白。
プライドの塊である直哉が、自らの失態——あろうことか「書き割り」と見下していた女を、別の絶世の美女を抱く際の「代償」として求めてしまったことを、包み隠さず認めた瞬間だった。
「……え?」
は目を見開き、言葉を失った。
あまりに想定外の、あまりに不条理な言葉。