第4章 【直哉×無関心女中】
一方。
屋敷の廊下を、は静かに歩いていた。
直哉の命令通り、彼に見つからぬよう、夜が明ける前の、まだ薄暗い時間帯に掃除を済ませようとしたのだ。
廊下の角を曲がった、その時。
「……っ、きゃあ!」
向こうから、凄まじい勢いで走ってきた人影とぶつかってしまった。
相手は、都会の香水を纏った、煌びやかな着物の女性。
今夜、直哉が連れ帰ったはずの「美女」だった。
「……っ、申し訳ございません! お怪我は……」
は咄嗟に頭を下げ、謝罪した。
だが、その女性は、の顔を、鑑定士が安物の瓦礫を見るような冷ややかな目で、まじまじと見下ろした。
「……ああ」
女性の口から、納得したような、けれどひどく侮蔑を含んだ声が漏れる。
「……あんたが、ね。……そういうこと、……確かにね」
彼女はの顔、その骨格、長い首、そして薄く引かれた「紅」を検分するように眺めた。
その瞳には、直哉への怒りと、自分を身代わりにした「本物」への、嫉妬と憎悪が混ざり合っている。
「……ふざけやがって」
女性は一言そう吐き捨てると、困惑するを突き放し、夜の静寂の中に消えていった。
「……? 」
が呆然と立ち尽くしていると。
背後の暗闇から、低い、けれど震えるような声が聞こえた。
「……お前の代わりや」
振り返れば、そこには障子の隙間から差し込む月光を背負い、着物を乱したまま、酷く惨めな顔をした直哉が立っていた。
その瞳は、これまでにないほど熱く、執着と、そして自分自身への怒りに燃えていた。