第1章 レンズ越しの体温 【ヒロアカ 轟焦凍×モデル】
アンバサダー就任の記者会見に先駆け、広告ビジュアルの先行撮影が行われた。
スタジオの扉を開けた瞬間、轟は思わず足を止めた。
設定は「早春の麗らかな光」だが、現実の窓の外は雪が混じる真冬だ。
空調は効いているものの、広大なスタジオ内には刺すような冷気が漂っている。
そんな中、は軽やかなシフォンのブラウスに、素肌を透かせた春物のスカートという装いで立っていた。
「……そんな薄着で、寒くないのか?」
轟が思わず声をかけると、彼女は肩をすくめて微笑んだ。
「寒いけど、もう慣れっこよ。モデルの仕事って、季節を先取りするのが当たり前だから」
だが、撮影のライトが点灯した瞬間、彼女の纏う空気が一変した。
まるで春の陽だまりの中にいるかのように瞳には暖かな光が宿る。
寒さを微塵も感じさせない、完璧なプロの姿。
轟もまた、指示に従って彼女の隣に並ぶ。
隣り合うと、彼女の肌から冷気が伝わってくる。それなのに、カメラを見つめる彼女の表情はどこまでも穏やかで、春の訪れを告げる女神のようだった。
「はい、チェック入りまーす!」
カメラマンの声が響きセットが休憩に入った途端、はスタッフが差し出した分厚いダウンコートに逃げるように包まった。
かじかんだ手で温かい紙コップを握りしめ、小さく体を震わせる。
「……っ、やっぱり、寒いわね……」
「……無茶をするな」
轟は自然と足が動いていた。
彼女の隣に歩み寄り、その震える肩にそっと手を置くと、左側から穏やかで持続的な熱を解放した。
「え……?」
が驚いて顔を上げると、触れられた肩から芯まで凍えていた体の中に、じんわりと心地よい熱が流れ込んでくるのが分かった。
まるで、自分専用の暖炉が隣に現れたような感覚。
「ショートさんのこれ、個性?」
「ああ。……少しはマシか」
「少しどころじゃないよ。……すごく、あったかい」
彼女は驚きに目を丸くした後、幸せそうに目を細めて吸い寄せられるように轟の体温の方へと寄り添った。
コート越しでも伝わる、力強く安定した「熱」
「ありがとう。……お礼に、次のカットはもっと素敵にリードしてあげる」
赤くなった鼻先をコートに埋めながら、彼女は悪戯っぽく、けれど心からの感謝を込めて微笑んだ。