第2章 天才的なアイドル様☆ 【ヒロアカ 爆豪×アイドル】
それからも、爆豪は時間の合間を縫ってはライブハウスへ足を運んでいた。
変装は徹底していた。
深めのキャップにマスク、地味な色のパーカー。
だが、どれだけ姿を隠そうともその身から漏れ出すオーラまでは消し去れない。
他のファンたちとは明らかに異質だった。
色とりどりのペンライトを振るわけでも、推しの名前を絶叫するわけでもない。
爆豪はいつもフロアの最後方、照明の届かない壁に背を預け、ただ腕を組んでステージを凝視していた。
その視線は「応援」というより「査定」に近い。
そんな不気味な存在が、狭い地下の界隈で目立たないはずがなかった。
「……ねぇ、あの後ろの男、今日も来てる」
「誰のファンなんだろう。一回もコールしてるの見たことないよね」
メンバーたちの間でも、楽屋で密かな噂になっていた。
物販にもチェキ会にも現れず、ただ最後方から王のように見下ろす謎の男。
ある日、一人の常連オタクが、仲間内での好奇心に背中を押される形で、爆豪に接触を試みた。
「あ、あの……お兄さん、誰推し? もしかして、ちゃん?」
愛想笑いを浮かべた男が肩を叩こうとした、その瞬間。
「……あ?」
キャップの鍔の下から、地獄の底を覗き込むような鋭い眼光が男を射抜いた。
言葉はそれだけだった。
だが、そこに含まれた圧倒的な殺気と圧に、男は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
爆豪はそのまま、震える男を無視して無言で会場を後にした。
それ以来、その「壁際の男」に話しかけようとする命知らずは一人もいなかった。
一方、ステージ上のもまた、その視線に気づいていた。
激しいダンスの最中、視界の端に映る微動だにしない影。
(……また、あの人だ)
ファンたちの熱狂的な声援の向こう側で、一人だけ冷徹な光を放つ瞳。
それは、馴れ合いを拒み、常に高みを目指そうとする自分自身を鏡で見ているような、奇妙な共鳴を呼び起こす。
言葉を交わすことはない。
けれど、最前線で戦う半年目のプロヒーローと、地下から武道館を見据える転生アイドルの間には、誰にも介入できない奇妙な関係のようなものが、音もなく築かれつつあった。