第2章 天才的なアイドル様☆ 【ヒロアカ 爆豪×アイドル】
あの日、爆豪が警護にあたったイベントを境に、『Re:IX(リナイン)』を取り巻く熱狂は加速度を増していた。
特にセンターのに対する注目度は異常だった。
デビュー半年の地下アイドルという枠組みは、もはや彼女の器を証明するには狭すぎる。
ホームであるはずのライブハウスは、酸欠になりそうなほどの熱気で埋め尽くされ、連日の「満員御礼」が彼女の勢いを物語っていた。
「……チッ、なんだこの人の数は」
その喧騒の中に深くキャップを被り、ハイネックの襟を立てた爆豪の姿があった。
変装してまで足を運んだ自分自身に苛立ちながらも、あの時感じた「光」の正体を確かめずにはいられなかった。
物販コーナーを見れば、の個人グッズだけが軒並み「SOLD OUT」の赤文字で塗りつぶされている。
Tシャツも、マフラータオルも、手に入れることすら叶わない。
さらにライブ後のチェキ会。
会場内にいくつも作られた列の中で、の待機列だけが異様な長さを誇っていた。
開始からわずか数分でスタッフの声が非情に響く。
「さん、チェキ券完売です! 定員に達したため締め切らせていただきます!」
周囲からは落胆の溜息が漏れる。
爆豪は列に並ぶつもりなど毛頭なかったが、その凄まじい集客力には目を見張るものがあった。
(半年でこれかよ。どんだけ他を突き放してやがる)
他のメンバーの列は、まだ余裕がある。
彼女たちには目もくれず、爆豪は遠巻きにの様子を盗み見た。
仕切り越しの彼女は、ファン一人ひとりと向き合っていた。
だが、その笑顔は決して「媚び」ではない。
相手を魅了し、自分の世界に引きずり込むための、完璧に計算されたプロの顔だ。
「……けっ、馴れ合う気はねぇって面だな」
ファンと会話を交わしながらも、彼女の意識はここではない、もっと高い場所にある。
それが爆豪には手に取るように分かった。
チェキ券を持っていない自分は、これ以上ここにいても無意味だ。
爆豪は一度だけ、パーテーションの隙間から見える彼女の背中を睨みつけるように見つめると、誰にも気づかれないよう足早に出口へと向かった。