異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第20章 カイン・レオンハルト 前編
「……エミリア・ヴァレンシュタイン。君の噂は、もう聞き飽きた」
その声が図書館に響いた瞬間、私はページをめくる手を止めた。
静まり返った王立学院の図書館。
古い魔導書の匂いと、午後の光。
そして、目の前に立つ大きな影。
私はゆっくり顔を上げた。
そこにいたのは、学院でも有名な騎士。
カイン・レオンハルト。
王国騎士団の見習いでありながら、すでに実戦経験もある男。
剣の腕も、人格も、誰もが認める優等生。
熱血で、誠実。
仲間思いで、弱者に優しい。
そして――
「またリリアーナを泣かせたそうだな」
私はため息をついた。
「……また?」
「とぼけるな」
カインは一歩前に出る。
騎士の制服が軋む。
「リリアーナは君に嫌がらせを受けていると話している」
その言葉を聞いた瞬間、私は本を閉じた。
ぱたん。
本を閉じた音が妙に大きく図書館に響いた。
「それで?」
「それで、だと?」
カインの眉が険しくなる。
「泣いている人間がいるんだぞ」
私は静かに立ち上がった。
カインは背が高い。
けれど、私は目を逸らさない。
「カイン様」
「……何だ」
「質問してもいいですか?」
私は首を傾けた。
「どうして、私が犯人だと決めつけているんですか?」
一瞬の沈黙。
カインはすぐ答える。
「リリアーナが言っていた」
「それだけ?」
「……それだけで十分だ」
彼の声は迷いがない。
むしろ、誇らしげですらあった。
「彼女は泣いていた」
拳を握りながら言う。
「弱い者を守るのは騎士の義務だ」
私は思わず苦笑した。
ああ、この人。
本当に“騎士”なんだ。
――でも、それは時々、致命的な欠点になる。