異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第18章 ノア・アルケイン 前編
図書館の棚の一件から、三日。
学院は、妙に静かだった。
表面上はいつも通り。
授業があり、紅茶会があり、令嬢たちの噂話もある。
けれど。
その噂の中身が変わった。
「本当にエミリア様なのかしら」
「でも、魔力を感じたって……」
「けど棚に糸が……」
疑念は、二つに割れていた。
それでいい。
私はそう思う。
完全に信じられる必要はない。
ただ――疑問が存在すればいい。
私は中庭のベンチに座り、紅茶を飲んでいた。
令嬢が三人、第三者を置く。
習慣になっている。
すると、その中の一人が言った。
「最近、リリアーナ様が図書館にこもっているそうです」
私はカップを置く。
「そう」
それだけ答える。
だが頭の中では、別のことを考えている。
静かな期間――それは準備の時間だ。
演出型は、沈黙に耐えられない。
――必ず次の舞台を用意する。
その夜。
寮の部屋で、私は日記を開いた。
ページの中央に名前を書く。
リリアーナ
その下に項目を書く。
傾向
・観客を必要とする
・被害者の構図を好む
・事故形式を使う
・証言を重視する
私はペンを止め、少し考える。
そして新しい行を書く。
次の作戦予測
・証人を複数配置
・魔術的証拠を利用
・「恐怖」ではなく「危険」を演出
つまり――
事故ではなく事件。
私はペンを置いた。
「なるほど」
静かな部屋で、小さく呟く。
次は――魔術だ。
予想は当たった。
二日後。
魔術実習室で事件は起きた。
今日は上級生と合同の魔術実験だった。
突然、魔力が暴走した。
光が弾ける。
生徒たちが悲鳴を上げる。
そして中心にいたのは――リリアーナ。
「きゃあ!」
白い光。
聖女の回復魔法。
暴走は止まる。
静寂……そして――
――床に落ちていた魔石。
教師が拾う。
「……これは」
魔力紋。
それは、私の魔力に似ていた。
周囲の視線が集まる。
私は何も言わない。
その時。
アルベルトが言った。
「……エミリア」
低い声だった。
――疑念。
それは、確かにそこにあった。
だが――その空気を壊したのは、別の声だった。
「殿下」
振り向く。
黒髪。
灰銀の瞳。
ノア・アルケイン。
彼は壁にもたれたまま、腕を組んでいた。