異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第16章 私が主役 中編
私は聖女。
奇跡を起こす力がある。
平民の私が、王子と並ぶ物語だってあり得る。
むしろ、その方が――美しい。
その日、私は初めて理解した。
自分の力の使い方を。
人は、弱いものを守りたがる。
泣いている少女を、助けたくなる。
冷たい人間を、悪役にしたくなる。
それは、とても簡単なこと。
物語を作ればいい。
最初の階段。
ほんの小さな演出だった。
私は泣いた。
震えた。
「怖かった」
と言った。
それだけで、空気は動いた。
ああ……簡単。
こんなにも簡単に、世界は私の味方になる。
そう思った。
でも――次の日。
彼女は何もしてこなかった。
怒らない。
言い訳しない。
泣きもしない。
ただ、いつも通り授業を受けて、いつも通り首席を取って、いつも通り静かに歩いている。
それだけ。
それだけなのに。
どうして?
どうしてみんな、“迷い始めているの?”
図書室の棚。
温室の花瓶。
私はちゃんと考えた。
ちゃんと演じた。ちゃんと泣いた。
なのに……
最近、視線が違う。
「また事故?」
「でも……」
その“でも”が、胸を刺す。
違う!違うの!!
私は被害者なの。
私は聖女なの。
私の物語は、みんなが守ってくれるはずの物語なのに。
――夜。
寮の部屋で、私は鏡を見る。
涙で赤い目。震える肩。
完璧な被害者の顔。
それなのに……
頭の中で、別の声がする。
――矛盾が増えてる。
――事件が多すぎる。
――観客が考え始めてる。
私は首を振る。
違う――
まだ大丈夫。まだ壊れてない。
だって私は聖女。
私は物語の主人公。
――でも。
最近、一番怖いのは、エミリアの顔だ。
怒らない。
焦らない。
何も言わない。
ただ――見ている。
まるで私の物語が崩れるのを、静かに待っているみたいに。
私は拳を握る。
負けない!絶対に!!
だってこの物語は、私のものだから。
平民の聖女が、貴族社会で輝く物語。
王子が振り向く物語。
悪役令嬢が断罪される物語。
そのはずなのに……どうして?