後宮は恋愛する暇はありません!なのに皇帝がやたら近い件!
第22章 暁辰と琳 前編
本当に、一瞬だった。
男の体がぐらりと揺れ、そのまま地面に崩れ落ちた。
……え
強い。
というより――
速すぎる
私は息を呑む。
その人が、ゆっくり振り返った。月明かりが顔を照らす。
見覚えのある顔。
あの方だ。
「あ……」
思わず声が漏れる。
「あなたは」
彼は私を見ると、わずかに眉を寄せた。
「怪我は」
低い声。
昼よりもずっと冷たい。
「……ありません」
私が答えると、彼は小さく息を吐いた。
その瞬間。
背後から別の足音が迫る。もう一人の曲者だ。
男が私に向かって突っ込んでくる。
私は反射的に後ろへ下がる。
でも。その人は前に出た。
剣が走る。火花。鋭い衝突音。
二人の刃がぶつかり合う。ほんの数合。
それだけだった。
次の瞬間、男の刀が地面に落ちる。
衛兵の足音が近づき、曲者はすぐに取り押さえられた。
静けさが戻る。
「……助かりました」
そう言うと、あの方は少しだけ私を見た。
じっと。
まるで、何かを確かめるみたいに。
「どうして逃げない」
「逃げましたよ」
私は苦笑する。
「でも捕まったら意味ないので」
「危険だった」
「そうですね」
私が頷くと、彼は黙る。でも視線は外さない。
その目は、少し不思議だった。昼間はもっと、冷たい印象だったのに。
今は――どこか、戸惑っているみたい。
……変な人
その時。
遠くから声が聞こえた。
「陛下!」
衛兵たちだ。
何人も走ってくる。
「陛下、ご無事ですか!」
私は一瞬、意味が分からなかった。
……へいか?
頭の中で言葉がゆっくり転がる。