後宮は恋愛する暇はありません!なのに皇帝がやたら近い件!
第15章 事件を追え! 後編
いや、違う。これは——終わりじゃない。
その時だった。
「お前は……琳?」
背後から声がした。びくっとして振り返る。
そこに立っていたのは白瑪宮の侍女頭――明橘(みんじゅう)。
白瑪宮は白虎妃の宮。
つまり、後宮でもかなり格式の高い場所だ。
明橘は三十代半ばほどの女で、鋭い目をしている。
完全に見られた。私は即座に頭を下げた。
「も、申し訳ありません」
「こんな時間に何をしているの?」
静かな声。でも油断ならない。
私は一瞬で言い訳を組み立てた。
「洗濯場からの衣の確認で……」
「夜に?」
「昼間、青龍宮の衣に染みがありまして。念のため調べていたところ、侍女の方が慌てて出て行くのを見て……」
明橘の目が細くなる。
「追ったの?」
「……はい」
完全な嘘ではない。明橘はしばらく私を見つめた。
それから、先ほど宦官たちが去った方向を見る。
「今の騒ぎ、見た?」
「少しだけ……」
「白瑪宮の侍女が、何か罪を犯したのでしょうか」
明橘は答えないせ――ただ、静かに言う。
「見習い女官が首を突っ込むことじゃないわ」
「……はい」
「でも」
明橘の声が少しだけ柔らいだ。
「あなた、最近よく名前を聞く」
私は顔を上げた。
「洗濯場から上がったばかりなのに、
妙に頭が回る子がいるって」
……誰が言ってるのよ。
桃児かな?それとも…
私は口を閉ざす。明橘はふっと笑った。
「今日のことは忘れなさい」
「はい」
「そして部屋に戻りなさい。
見習い女官が夜にうろついていると、今度はあなたが連れて行かれるわ」
私は深く頭を下げた。
「ご忠告、ありがとうございます」
明橘はくるりと背を向ける。白瑪宮の方向へ歩き出す。
去り際、ぽつりと呟いた。
「でも——」
私は顔を上げる。明橘は振り返らないまま言った。
「毒の染みを見抜いたのは、あなたね」
――知ってた!
心臓が一瞬止まりかけた。
……やっぱり。