夢幻泡影②【呪術廻戦(死滅回游〜)/伏黒 恵オチ】
第12章 トライトーンに蘇る恐怖【東京第1結界】
「諦めたら? 点をくれるなら見逃してあげてもいいよ。術式を解除するとは限らないけどね」
キャスケットのつばを少し持ち上げ、かや子が凶悪な笑みを浮かべる。
「見逃してもらう必要ない。もう――終わる」
――【領域展開 夢幻泡影之揺籠(むげんほうようのゆりかご)】
ザァ…と景色が変わり、双子の月が浮かぶ夜の空間が広がった。高い楼閣が聳え立ち、シャボン玉のような泡が漂い、桜の木々が揺らめいて不規則な影を描いている。
「あ、あぁ、あぁぁ――⁉︎ なんっ、だよ、コレ‼︎」
かや子が頭を抱えて悲鳴を上げた。些細な振動も旋律となって対象の脳を蝕む――【夢幻泡影之揺籠】の必中効果だ。
『あたしを想って歌ってくれなきゃ、機嫌は治らないわよ』
ふわりと背後から抱きしめるように詩音が降り立つ。
「任せて」
痛みに疼く腕を持ち上げ、胸の前で手を組み、深く息を吸い込んだ。
「――【張り詰めた詞ノ葉を 紡ぎ出す哀し詩】」
――【やわらかな温もりに 胸の奥 焼けついて】
ゴゥッと炎が巻き上がり、壊相と血塗が動けない かや子を連れて飛び退く。
【領域】の必中効果を受けていない動き。痛覚がないのか?
けれど、動きは鈍くなっている。
全く効いていないわけではなさそうだ。
『詞織、集中して。あたしの歌でしょ。ちゃぁんと聴かせてちょうだい』
苛立たし気な詩音の声に、詞織は「そうもいかないでしょ」と内心で思いつつも歌を続ける。