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彼はアイドル。

第8章 彼女の計画、彼の差別化。



うさみはソファの横で、棒立ちになったまま固まった。
逃げる間もなかった。

真っ白な、彼とお揃いの「YESEYESEE」のスウェットを着たまま、うさみ彼を正面から迎える形になってしまった。
拓人の視線が、うさみの顔から、その胸元のロゴへとゆっくりと落ちていく。


「…………」


一瞬、沈黙が降りた。

そのまま一歩、また一歩とうさみの方へ歩み寄ってくる。
その瞳は、仕事終わりの穏やかさから、徐々に温度を変えていく。

 
「……うさみ」


彼は至近距離で立ち止まると、うさみの肩先に手を置き、その白い生地を指先で軽くつまんだ。悟られている、そう思えた。


「それ……俺、貸したっけ」


「あ、……いや。……自分で、買った」


うさみの声が小さく震える。
拓人は無言のまま、うさみを上から下まで舐めるように凝視した。

彼が着れば少しゆとりのあるサイズ感が、うさみの体では完全に「彼に飲み込まれている」ような、歪で、けれど暴力的なほどに愛らしいシルエットを描いている。


「……わざわざ、これ探して買ったわけ? ファンがこぞって買ってる、これ」


彼の声のトーンが、わずかに低くなった。
怒っているわけではない。けれど、そこには「自分の領域」を巧妙に真似されたことへの、言いようのない独占欲が滲み出していた。

拓人はつまんでいた生地を離すと、そのままうさみの首筋に手を回し、自分の方へとぐいと引き寄せた。


「……お揃いが良かった? それとも、俺を感じたかった?」


耳元で、彼の吐息が、新品の白い生地を震わせる。
拓人は、うさみの首筋に回した手に少しだけ力を込め、逃げ道を塞ぐように顔を寄せた。


「……そんなに俺と同じがいいなら、俺の着てるやつ、そのまま貸したのに。……その新品、俺の匂いしないでしょ」


耳元で響く、低くて少し意地悪な声。
拓人が愛用しているのと同じ、真っさらな白。それがうさみの肌の白さを引き立て、自分が着ている時とは全く違う「無垢な色気」を放っている。それがどうしようもなく拓人の独占欲を逆なでした。

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