第8章 彼女の計画、彼の差別化。
数日後。
届いた小さな段ボールを、宝箱を開けるような手つきで開封した。
中から現れたのは、ブランドロゴが大きく書かれたビニール袋に包まれた、パリッとした新品の白。
うさみは我慢できずに、すぐに自分の服を脱ぎ捨てて、そのスウェットに袖を通した。
『彼』である前に、『推し』とお揃いという高揚感。
生地の厚み、袖の溜まり具合。
鏡の前に立つと、指先が半分隠れるくらいのオーバーサイズ。
拓人が着れば精悍に見えるそのスウェットが、うさみが着ると、まるで彼に包み込まれているような、ひどく無防備なシルエットを作り出していた。
まだ彼の匂いも、生活感も何もしない、真っさらなスウェット。
うさみはその袖口に鼻を寄せ、いつかここを彼の香りでいっぱいにしたいと、静かに目を閉じた。
『明日まで仕事。終わったら連絡する』
そのメッセージを最後に信じて、うさみはリビングでひとり、贅沢な時間を過ごしていた。
新調したばかりの「YESEYESEE」の白いスウェット。鏡の前で何度もシルエットを確認し、袖の余り具合に彼の体格を想う。
まだパリッとした新品の質感が肌に心地よくて、そのままソファに深く沈み込み、彼が出演した舞台の円盤を眺めていた。
画面の中で、178センチの長い手足を完璧に操って動く彼。
自分の肩から落ちるこの白い生地が、彼の広い肩幅にも同じように乗っているのだと思うだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。
その時だった。
カチリ、と玄関の鍵が回る音がした。
「……えっ?」
心臓が跳ね上がる。
連絡はない。明日の予定だったはずだ。
慌てて立ち上がり、脱ぎ捨てようか、それとも何かを羽織ろうかと狼狽している間に、足音は廊下を抜けてリビングへと近づいてくる。
「ただいま。……悪い、巻きで終わったからそのままこっちきた」
聞き慣れた、少し疲れを含んだ低い声。
リビングのドアが開くと、そこにはコートを着たまま、少し乱れた髪をかき上げる拓人が立っていた。