第8章 彼女の計画、彼の差別化。
画面の中の彼は、相変わらずどこまでも美しく、そして遠い。
うさみはベッドに寝転んだまま、スマホの画面を食い入るように見つめていた。
映し出されているのは、彼がダンスのリハーサル中に撮られたオフショット。
激しい動きの後なのか、少し乱れた髪と、首筋に光る汗。そして、その身体を包んでいるのは、特徴的なロゴが入ったオーバーサイズの白いスウェットだ。
(……これ、やっぱり可愛い)
韓国の気鋭ブランドのものだということは、すでに特定済みだった。
ファンの間でも特定班の動きは速く、SNSでは「お揃い買った!」「どこも売り切れで泣ける」という投稿が溢れている。
彼が愛用しているというだけで、その服には彼自身の体温や、彼が纏う空気までもが宿っているように見えてしまう。
うさみにとって、それは単なるファッションではなかった。
彼と会えない時間に、少しでも彼の存在を肌の近くに感じていたいという、切実な願いの形だった。
「……あ、あった!」
数日間にわたって、海外の公式サイトやセレクトショップのページなどいろんなECサイトをリロードし続けた甲斐があった。
再入荷。
うさみは、舞台のチケットを取る時のような緊張感で、震える指先を画面に叩きつけた。
住所を入力し、決済を済ませる。
「ご注文完了」の文字が出た瞬間、スマホを胸に抱えて大きく息を吐き出した。
(ファンのみんなは、これでお揃いだって喜ぶんだよね。)
私は、これを持って彼の家に行く。
彼が着ているのと同じ服を着て、彼の隣に座る。
それがどれほど贅沢で、そして少しだけ後ろめたいことか。
「ファンの一人」として彼を追いかけていた頃の自分と、今の自分が、頭の中で複雑に交差する。
彼に「わざわざ買ったの?」なんて笑われるかもしれない。
でも、彼から借りたブカブカの服を着るのとはまた違う、「自分から彼に近づきたい」という意思表示のようで、うさみの胸は高鳴っていた。