第7章 確信犯のメガネ。
映画のエンドロールが静かに流れ、部屋には微かな空調の音と、さっきまで交わしていた体温の気配が残っている。
飲みかけのビール缶をテーブルに置き、彼はふぅ、と深く息を吐くと、何かを思い出したようにスウェットのポケットをまさぐった。
「……あ、そう。これ」
差し出された彼の手のひらには、見慣れないシルバーの鍵がひとつ、ぽつんと乗っていた。
うさみが驚いて顔を上げると、彼は少しだけ視線を逸らし、付け加えた。
「……これ、スペアキー。渡すかどうかずっと迷ってて、作るの時間かかったんだけど。……もういいかなって」
18年という長い年月、彼は自分のプライベートを死守してきた。
ましてや自分の領地であるこの部屋の鍵を誰かに預けるなんて、彼にとっては自分の命運を分けるほどの大きな決断だったはずだ。
「いいの? 私、勝手に来ちゃうよ」
うさみがわざと茶化すように言うと、彼はようやくこちらを向き、観念したような苦笑いを浮かべた。
「いいよ。……むしろ、勝手に来いよ。俺がいない時に部屋の電気がついてるの、あの日以来、嫌いじゃなくなったし」
先週、うさみが「寝る」と嘘をついて意地を張っていたあの夜。
部屋の明かりを見つけて、焦燥感とともに彼が感じたのは、自分の帰る場所に誰かがいるという、経験したことのない安らぎだったのだ。