第7章 確信犯のメガネ。
「……来週も、再来週も。空いてる時間は全部お前にやる。だから、あんな冷たい声で電話切るな」と、うさみをソファに押し込んだまま、重く、切実ない声を漏らした彼。
18年間、常に誰かに求められ、時間を奪い合われてきた男が、自ら「すべてを捧げる」と口にした。彼にとっては、これ以上ない最大級の降伏宣言だった。
けれど、うさみから返ってきたのは、熱烈な感謝でも、甘い溜息でもなかった。
「……それは、ダメ」
「……は?」
耳元で聞こえたきっぱりとした拒絶に、彼は顔を上げた。至近距離で見つめ合う。彼の瞳には、予想外の反応に対する困惑が浮かんでいる。
「ちゃんと自分の時間も作って。ただでさえ忙しいのに、そんなことしたら拓人が休まらないでしょ」
諭すような、穏やかで現実的なトーン。
彼が今まで出会ってきた女性たちなら、きっと「嬉しい」と泣いて喜んだか、「もっともっと」と欲張ったはずの言葉。それをうさみは、まるで子供の無理なワガママを嗜めるように、さらりと差し戻した。
「……お前、今俺がどんな気持ちで言ったか分かってるの?」
彼は眉間に深い皺を刻み、苛立ちを露わにする。
自分の全てをぶつけたのに、彼女はそれを「受け取らない」ことで、さらに自分を突き放そうとしている。
「分かってるよ。嬉しいよ。……でも、私は拓人の体の方が大事。私のために無理して、現場でボロボロの拓人なんて見たくない。……そんなの、全然嬉しくない」
うさみはそう言って、彼の頬を両手でそっと包み込んだ。