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彼はアイドル。

第7章 確信犯のメガネ。




頬に触れる彼の指先の震えに気づきながらも、唇を噛み締め、静かに言い返す。

「拓人が『次は自分から言う』って言ったからでしょ。……だから、待ってたの。拓人がその言葉を守るのか、それともただの虚勢だったのか、確かめたくて」

「っ……」

彼の喉が小さく鳴る。図星を突かれた男の、苦渋に満ちた表情。
「次はいつ?」と聞かせてうさみに追いかけさせるはずだったのに、実際は自分が、夜道を引き裂くように車を走らせ、彼女の家の鍵を強引に開けていた。

「俺が、……こんな夜中に、わざわざ仕事巻いてまでここに来た。これが答えじゃ不満かよ」

「不満だよ。……だって、まだ『次はいつ』って聞いてないもん」

うさみの頑なな態度に、彼の理性がついに限界を迎える。

彼はうさみの肩を掴み、ソファに押し込むようにして覆いかぶさった。怒りと、焦燥と、そしてどうしようもない執着が混ざり合った、歪な抱擁。

「……分かったよ。負けだよ、クソ。」

彼はうさみの首筋に顔を埋め、深く、深く、吐き出すように呟いた。

「来週も、再来週も。……空いてる時間は全部お前にやる。だから、あんな冷たい声で電話切るな。……俺を、試すような真似するな」

それは、謝罪ですらない。
けれど、自分の描いたシナリオが崩壊し、プライドをボロボロにされながらも、うさみを求めてしまう自分を認める「敗北宣言」だった。

うさみの胸の奥で、張り詰めていた意地が、音を立てて崩れていく。
「めんどくさい」と思っていたはずの彼の執着が、今は熱を帯びて、自分を支配していくのがわかる。

うさみがそっと彼の背中に腕を回すと、彼はさらに強く、壊さんばかりに彼女を抱きしめ返した。

意地を張り合った末に辿り着いたのは、どちらかが勝つ関係ではなく、お互いに「君がいないとダメだ」という、無様で剥き出しの真実。

彼が顔を上げ、至近距離でうさみを射抜く。
その瞳には、もう「アイドル」の仮面など微塵も残っていなかった。


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