第7章 確信犯のメガネ。
そこに立っていたのは、帽子も被らず、髪を少し乱したままの彼だった。
現場からそのまま、なりふり構わず車を飛ばしてきたことが一目でわかる。
彼はリビングの入り口で足を止め、ソファでスマホを握りしめているうさみを、ただ黙って見下ろした。
「……」
無言。
けれど、その瞳には明らかな「怒り」と、抑えきれない「イラつき」が混ざり合っている。
「寝る」と嘘をついて自分を突き放したうさみの憤りと、そんな嘘に翻弄されて、深夜に必死でここへ駆けつけてしまった自分自身への苛立ち。
彼は一歩、また一歩とうさみとの距離を詰めてくる。
うさみは何か言い訳をしようと口を開きかけるが、彼の放つ圧倒的な「男」の熱量と圧迫感に、言葉が喉の奥に張り付いて出てこない。
彼はうさみのすぐ目の前まで来ると、ソファに片膝をつき、彼女を閉じ込めるように身を乗り出した。
至近距離で合う視線。
数々の修羅場をくぐり抜けてきた男の瞳が、今はただ一人の女性への執着だけで燃えている。
「……嘘、下手すぎ」
ようやく彼が発した言葉は、低く、地を這うような響きだった。
怒っている。でも、その怒りの裏には、21時に電話を切られた瞬間の絶望や、この2週間の渇きが限界まで詰まっているのが痛いほど伝わってくる。
彼はうさみが握りしめていたスマホを、大きな手でひょいと取り上げた。
画面には、まだ送信もできていない言い訳の残骸が虚しく光っている。
「寝るんじゃなかったのかよ。……こんなところで、何してんの」
問い詰めながらも、彼の指先がうさみの頬に触れる。
その指が微かに震えていることに気づいた瞬間、うさみは、彼がどれほどの熱量で自分を「奪い返しにきた」のかを悟った。
衝突、あるいは降伏
「……寝るなんて嘘ついて、何してたんだよ。言えよ」
至近距離で放たれる彼の言葉。低く、苛立ちを隠そうともしない声。
彼はうさみの反応を待っている。自分の登場に腰を抜かして、泣きながら「会いたかった」と縋ってくるのを待っている。それが、彼が描いた勝ち筋のシナリオだから。
でも、うさみは視線を逸らさなかった。