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彼はアイドル。

第7章 確信犯のメガネ。




23時12分

「……っ」

スマホの画面に浮かんだ一文を見て、うさみは心臓が跳ね上がるのを感じた。

『なぁ、あのあと寝るんじゃなかったのかよ』

一気に血の気が引いていく。

21時に電話を切ったとき、「もう寝るね」と言い放ったのは確かに自分だ。でも、実際にはあれから着替えもせず、リビングのソファで膝を抱えて、彼への意地と寂しさの狭間で悶々としていた。

なんで、バレてるの。
「寝る」と嘘をついたことへの罪悪感よりも先に、言いようのない寒気が背中を走る。
彼はまだ現場にいるはずじゃなかったの? それとも、帰宅途中にたまたま私のマンションの前を通った?

(……うそ、まさか、今、下にいる?)

慌ててカーテンの隙間から下を覗こうとしたけれど、もし本当に彼がそこにいたら、影が動いただけで「やっぱり起きてる」と確信させてしまう。

返信、なんて打てばいい?
「今起きた」じゃ苦しいし、「テレビ見てた」なんて口が裂けても言えない。
スマホを握る指先がわずかに震える。
『既読』をつけてしまった。早く何か返さないと、不自然な沈黙が肯定に変わってしまう。
文字を打っては消し、消しては打ち……。

思考がパニックで空転し、心臓の音だけが耳元でうるさく響く。
どうやってこの場を切り抜けるか、必死で言い訳を捏造しようとした、その時だった。

——カチャ。

静まり返った玄関から、無機質な金属音が響いた。

「え……?」

思考が止まる。
続いて、重厚なドアが開く、わずかな風切音。
彼しか持っていないはずの、合鍵が回る音。

メッセージを送ってから、まだ数分も経っていない。
「下にいるのかも」なんていううさみの甘い予測を嘲笑うかのように、彼はもう、扉のすぐ向こう側まで牙を剥いて迫っていた。

逃げる間も、隠れる間もなく、玄関のセンサーライトがパッと白く点灯する。
うさみはスマホを握りしめたまま、ソファの上で凍りついた。

玄関のセンサーライトが、逃げ場のない白さで廊下からリビングへのドアを照らす。

ゆっくりと閉まる玄関ドアの音。そして、廊下からリビングへと迷いなく近づいてくる、あの聞き慣れた足音。

うさみはソファの上で固まったまま、ただ玄関へと続く通路を凝視することしかできなかった。

「……あ」

声にならない声が漏れる。




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