第7章 確信犯のメガネ。
番組を見てほしい。
俺を求めてほしい。
次はいつ会えるのか、自分を焦がしてほしい。
そんな、アイドルとして誰かに「求められること」が当たり前だった男の、剥き出しの承認欲求と独占欲が、隠しきれずに声に滲んでいる。
「……」
うさみは何も答えない。ただ、受話器から漏れる彼の微かな呼吸音を聞いている。
沈黙が、重く、長く、二人の間に横たわる。
10秒、20秒……。
耐えられなくなったのは、彼の方だった。
『……なぁ。聞いてる?』
「聞いてるよ」
うさみは、感情を削ぎ落とした静かな声で答えた。
彼の中にある「次は俺から言う」という、昨夜の尊大な捨て台詞。それを、うさみは一瞬たりとも忘れていない。
(自分から「次はいつ?」って聞かせて、優位に立ちたいだけでしょ)
彼の思惑通りに動くつもりは、もう毛頭なかった。
彼が自分の足で、自分の言葉で、プライドを捨てて歩み寄ってこない限り、この溝は埋まらない。
『……明日の収録昼頃になった。そっちも明日仕事だよな』
「うん、そうだね」
『……、……。』
また、沈黙。
彼は、うさみの方から「じゃあ、明日の収録終わったら連絡して」とか「次はいつ空いてるの?」という言葉が出てくるのを、喉から手が出るほど待っている。
でも、彼女はそれを口にしない。
「……ごめん、明日早いから、そろそろ寝るね。おやすみ」
『は? 待てよ、まだ——』
彼の焦った声を遮るように、うさみは通話終了のボタンを押した。
画面が暗くなり、静寂が戻ったリビング。
昨夜、彼が残していった「次は俺から言う」という不機嫌な約束。
それを守るつもりがあるのか、それともただの虚勢だったのか。
うさみは、突き放した瞬間の彼の、あの縋るような、でもプライドを捨てきれない声色を思い出し、少しだけ冷めた紅茶を飲み干した。
「……さあ、次はどう動くの? 」
追いかけるのは、もうおしまい。
彼を本気にさせるための、これがうさみなりの、真夜中の宣戦布告だった。