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彼はアイドル。

第7章 確信犯のメガネ。







夜21時。
沈黙を始めてから丸一日。
ついに、スマホがこれまでとは違う、長く重いバイブレーションを響かせた。

メッセージではなく、着信。
それも、一度切れても、間髪入れずに二度目が鳴る。
うさみはゆっくりとスマホを手に取り、三度目のコールが鳴ったところで、ようやく通話ボタンを押した。

「……もしもし」

『……やっと出た』

受話器越しの声は、低く、押し殺したような怒りと、それ以上の「疲労」が混ざり合っていた。

『お前、丸一日何してたんだよ。メッセージ、見てんだろ』

「仕事してただけだよ。拓人こそ、生放送お疲れ様。さっきテレビで見たよ、かっこよかった」

あえて「昨夜の不機嫌」には触れず、ファンみたいな定型文を返してみる。
電話の向こうで、彼がはぁとため息をつく音が聞こえた。

『……お前さ、それはないよ。……昨日のこと、怒ってんだろ』

ようやく、彼が自ら「核心」に触れた。
19年目のプライドをかなぐり捨てて、自分から「うさみが怒っていること」を認めざるを得なくなった瞬間。

「怒ってるように聞こえる?」

『……ああ、聞こえる。……悪かったよ。あんな言い方して。……だから、黙るのやめろよ』

絞り出すような、敗北宣言。
うさみは窓の外の夜景を見つめながら、小さく、勝利の微笑みを浮かべた。

電話越しに聞こえる彼の声。一見、謝罪の形はとっているけれど、うさみにはわかる。
これは本心からの反省じゃない。自分の思い通りに動かないうさみを、とりあえず「形だけの謝罪」でコントロールして、元の「物分かりの良い彼女」に戻そうとしているだけの上辺の言葉。




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