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彼はアイドル。

第7章 確信犯のメガネ。




22時15分。

ようやく、スマホのバイブレーションがテーブルを叩いた。
表示された名前は、もちろん彼。
うさみはすぐには手に取らず、紅茶を一口飲み、三回ほど深呼吸してから画面を見た。

『寝た?』

たった二文字。
昨夜の態度の謝罪もなければ、不機嫌の理由の説明もない。

「怒ってるかどうかの確認」と、「うさみから話題を振ってほしい」という下心が透けて見える、あまりにも彼らしい、ずるい一言。
うさみはフッと鼻で笑い、スマホを伏せた。
既読すらつけない。

(昨夜あんなに不機嫌に帰っておいて、たった二文字で許されると思ったら大間違いだよ)

彼の中では今頃、「あれ、未読?」「寝たのか?」「それとも本気で怒ってるのか?」と、いろんな感情が渦巻いているはずだ。自分の放った一言のせいで、きっとペースを乱されている。

15分後、再びスマホが震える。

『起きてるの分かってんだけど。……さっき、テレビ出てたの見た?』

今度は少しだけ食い気味な、話題を探しているのがバレバレのメッセージ。
うさみはソファに深く背を預け、天井を見上げた。

会えない時間は、メガネがあるだけで幸せだった。
でも、会ってしまった後のこの「ひりつくような沈黙」も、彼と繋がっているという確かな実感になる。
うさみはさらに30分待ってから、一言だけ、極めて事務的に返信した。

『お疲れ様。見てないよ、今日は仕事で疲れてて。もう寝るね』

送信。

直後に「既読」がついた。
彼がスマホを握りしめて待っていた証拠だ。

(……さあ、どうする?)

大人気ないのは百も承知。でも、今のうさみには、この沈黙という武器を使って彼を翻弄する時間が、最高に贅沢な復讐に思えた。





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