第7章 確信犯のメガネ。
22時の静寂、仕掛けたのは彼女。
彼が不機嫌そうにドアを閉めてから、24時間が経とうとしていた。
いつもなら「現場着いた」とか「収録終わった」という、生存確認に近い短文が届く頃だ。でも、うさみのスマホは一度も震えない。
彼の方も、昨夜の自分の態度の悪さを自覚しつつ、うさみから「怒ってる?」とか「昨日はごめんね」という歩み寄りが来るのを、どこかで期待しているに違いない。
(……絶対に、自分からは送らない。)
うさみはリビングの照明を少し落とし、自分一人のためだけに丁寧に淹れた紅茶を口にする。
何年もチヤホヤされてきた彼だ。たまには「自分の不機嫌が通用しない相手」がいることを、身をもって知ればいい。
「めんどくさいなあ、本当に……」
そう呟きながらも、指先は無意識にスマホの画面をなぞってしまう。
でも、ホーム画面を開くことはしない。
SNSで彼の名前を検索して、今日の仕事の様子をチェックすることもしない。