第7章 確信犯のメガネ。
少しだけ声を荒らげた、棘のある問いかけ。
うさみがメガネ一つで「平気そうに」待っていたことが、彼の中の何かに火をつけたのかもしれない。
自分だけがスケジュールをやりくりして、深夜に車を飛ばして、必死になって会いに来た。それなのに、彼女はどこか余裕があるように見える。そんな割り切れない思い。
うさみは一歩、彼に歩み寄った。
「気になるよ。……でも、忙しくて大変なの分かってるし。無理やり約束させるのは申し訳ない」
「……、……可愛くないこと言うなよ」
拓人は不機嫌そうに吐き捨てた。
その声色は、敗北感なんていう綺麗なものじゃない。「本当にそれが本音かよ」「無理して物分かり良いフリしてんじゃねえよ」という、彼女の「聞き分けの良さ」に対する苛立ちと、それでも彼女に甘えてしまっている自分への嫌悪感が混ざり合った、低い響き。
「……分かった。もういい」
彼はそれ以上言葉を重ねるのを拒むように、ドアを開ける。
隙間から差し込んだ廊下の光に照らされた彼の横顔は、冷徹な「プロ」の顔に戻りかけていた。
「……次は俺から言うわ。じゃあな」
彼はそれだけ言い残すと、今度こそドアを開けた。
カチャリ、と無機質な鍵の音が、二人の間に残ったわずかな「不協和音」を閉じ込めた。