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彼はアイドル。

第7章 確信犯のメガネ。







「……あと、10分か」

拓人が時計を見ることなく、低く呟いた。

ソファの上、彼の膝の間にうさみを抱きかかえるような形で、二人は静かに体温を分け合っている。

彼の鼻先がうさみの髪をなで、2週間分の不在を埋めるように何度も深く息を吸い込む。

「うさみの匂いがする。……落ち着くわー」

そう言って笑う彼の声は、仕事の時のハリのあるトーンではなく、どこか幼ささえ感じるほど掠れていた。
うさみもまた、彼の硬い肩に顔を寄せ、パーカーに残る夜の空気と、彼自身の体温が混ざり合った香りに目を閉じる。
けれど、情け容赦なく現実は迫っていた。

明朝、彼のマンションには迎えの車が来る。ここに滞在し、そこから仕事へ向かうという選択肢は、今日の彼には存在しない。

「……そろそろ、行かないと」

彼は一度、うさみを壊れ物のように強く抱きしめてから、名残惜しそうに体を離した。
玄関へ向かう足取りは重い。コートを羽織り、テーブルから回収したメガネをポケットにねじ込む。

ドアノブに手をかけたところで、彼は不意に動きを止めた。
振り返った彼の瞳は、先ほどまでの熱を帯びたものとは違い、どこか落ち着かない、不機嫌とも冷静ともつかない微妙な色を湛えている。

「……次いつ会えるかとか聞かないの?」

予想外の問いに、うさみが瞬きをする。

「え?」

「全然聞かなくない?2週間も会えなかったのに。……次がいつになるかとか、気にならないの?」




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