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彼はアイドル。

第7章 確信犯のメガネ。





深夜0時。

2週間ぶりに開いたうさみの家のドア。滑り込んできた彼は、帽子を脱ぐなり、どこか苛立ったような、それでいてひどく飢えたような顔でうさみを見つめた。

「……やっと、来れた」

自分でも驚くほど声が掠れている。この2週間、彼は移動中の車内で、何度スマホを手に取っては「今から行く」と打ち込み、消したか分からない。
仕事の合間、ふとした瞬間に愛用するメガネがないことに気づくたび、うさみの部屋の空気を思い出して、じりじりと焦がされていた。

さぞかし寂しがっているだろう。玄関先で縋り付かれるかもしれない——。
そんな予測を立てていた彼は、うさみの顔を見て、わずかに眉を寄せた。

「おかえり。お疲れ様」

迎え入れた彼女は、意外なほど穏やかな、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
寂しさでやつれているどころか、どこか艶っぽく、満たされているようにさえ見える。

「……何、その顔。あんまり寂しそうじゃないな」

リビングに入り、ソファーに腰を下ろした彼が、少し不機嫌そうに低く呟く。
するとうさみは、ジュエリーケースの隣に並べていた「彼の一部」を手に取り、いたずらっぽく微笑んだ。

「寂しくなかったわけじゃないよ。でも、毎日これがあったから。視界に入るたびに、拓人がわざと置いていった時の顔を思い出して、ニヤニヤしてた」

彼が自分を繋ぎ止めるために「人質」として置いていったメガネは、皮肉にもうさみにとって、最強の「寂しさ避けのお守り」になっていたのだ。

「……、……計算違いだわ」

彼は片手で顔を覆い、小さく吐息をついた。
自分はこんなにも、視覚的にも、感覚的にも彼女に触れられないことに限界を感じて、深夜に車を飛ばしてきたというのに。彼女は自分の私物ひとつで、幸せそうに「待つ時間」を楽しんでいたなんて。

「俺は、全然足りなかった」

彼は立ち上がると、うさみの手からメガネをひょいと取り上げ、そのままテーブルに置いた。
メガネを受け取るよりも先に、彼はうさみの手首を掴み、自分の方へと引き寄せる。

「2週間分、きっちり回収するから。……覚悟してて」

眼鏡越しの世界ではなく、直接触れる肌の熱。
彼が、自分の仕掛けた罠に自分でハマったことを認めるように、深く、重く、うさみの唇を塞いだ。


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