第1章 彼氏は自担です。
逃げ場を失った彼女が「う、うぅ……」と唸り声を上げると、彼は両手を壁について、うさみを閉じ込める。
完璧な、壁ドン。
「……ふーふー言うのやめろって。猫かよ」
「……だって、てらがかっこよすぎるのがいけない」
「……また言った。はい、お仕置き追加」
拓人は観念したように目を閉じたうさみの額に、自分の額をこつんとぶつけた。
鼻先が触れ合う距離。
さっきまでのドタバタした空気が一変し、彼の瞳が、熱を帯びた「男」のものに変わる。
「……いつになったら、ただの男として見てくれんの? 」
少しだけ拗ねたような、でも確かな独占欲を含んだ囁き。
うさみは、逃げようとした自分の心臓が、さっきよりもずっと激しく、今度は甘い音を立てて鳴り響くのを感じていた。
うさみは壁と彼の腕の間に挟まれ、もはや酸素が足りない。
「……み、見てるよ! 毎日、穴が開くほど見てるから! 雑誌も全部買ってるし、なんなら予約特典のトレカ、拓人……てらのやつ自引したし!」
「自引……笑 いや、そういう見方じゃなくてさ」
拓人は呆れたように笑うと、ふっと顔を近づけて、佳奈の鼻先に自分の鼻を軽く擦り寄せた。
「ひゃっ……! ち、ちょっと! 危機管理! アイドルとしての自覚を持って!」
「ここはのうさみの家だろ。誰に見られるんだよ」
「私が見てる! 私の眼球が、このスキャンダラスな距離を捉えてるの!」
必死で両手を出して抵抗するうさみ。けれど、その手首を、拓人の大きな掌がふわりと掴まえた。
驚くほど優しく、でも逃げられない強さ。
彼はそのままうさみの両手を頭の上に固定するようにして、さらに一歩、距離を詰めた。
「……て、てら……」
「はい、また『てら』。お仕置き、溜まりすぎて精算大変だぞ?」
「ちょっ、今のは不可抗力……!」
うさみがジタバタと抵抗しようとした瞬間、拓人がふっと力を抜いた。
……と思ったのは束の間、彼は彼女の腰をひょいっと抱え上げ、軽々と肩に担ぎ上げた。