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彼はアイドル。

第6章 I want your flavor. 2




パーカーの長い袖を少し捲り上げ、二杯目の白湯を飲む。
彼が去った後の部屋は静かだけれど、身に纏っている生地から伝わる熱のせいで、少しも寂しくはなかった。

不意に、テーブルの上でスマホが震える。
画面を見ると、現場の控室で撮ったのだろうか、衣装に着替える前の、少しだけ「仕事の顔」になりかけた彼の自撮りが届いていた。

『今、リハ終わった。まだ俺の家?』

画面越しでも、その瞳に射抜かれるような感覚になる。
少し照れくささを感じながら、スマホのキーボードを叩いた。

『まだ、ソファーで丸まってる。このパーカー、温かくて離れられない』

『わかる笑 それ、俺も一番気に入ってるやつ。もうすぐ家出る?』

仕事の合間の、短いけれど濃密なやり取り。
彼は決して、隙は作らない。
けれど、メッセージの行間からは、うさみを一人残してきたことへの名残惜しさが滲み出ていた。

『夕方前には自分の家に帰るよ。ゆっくり休ませてくれてありがとう』

『そっか……。現実に戻るの、早いな』

『あ、パーカーは洗って、次会う時に持ってくるね。柔軟剤、ウチの使っていい?』

そう送って、スマホを置こうとした時だった。
すぐに既読がつき、彼から予想外の返信が届く。

『洗わなくていいよ』

続けて通知。

『そのまま、置いていって。……うさみ匂い、俺の服につけたままにしておいて欲しいから』

画面を見つめたまま、うさみは息を呑んだ。
いつもは「匂わせ」どころか、自分の生活に他人の気配を残すことをほとんどしない彼。
そんな彼が、たった一人の女性の「残り香」を求めている。

不意に、昨夜彼が耳元で何度も名前を呼んでいた時の熱が蘇る。
うさみはパーカーの襟元をぎゅっと掴み、少しだけ震える指で返した。

『わかった。わがまま、聞いてあげる笑 頑張ってね、拓人』

ここぞという時にだけ送ったその名前に、彼からすぐに『おう。夜、また連絡する』と、短くも力強い返事が届く。

一人の部屋。
自分の肌の香りと、彼の衣類の香りが混ざり合っていく。
次に会える時まで、このパーカーが二人を繋ぎ止めてくれるのだと、うさみは確信していた。



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