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彼はアイドル。

第6章 I want your flavor. 2




拓人が仕事に出た後、静まり返った彼の部屋。

うさみは、彼が「これ、着てていいから。俺のだからちょっとデカいけど」と手渡してくれた、厚手のグレーのパーカーを羽織った。

178センチの彼が着てちょうどいいサイズ。
160ちょっとのうさみが着ると、袖は指先まで覆い、裾はお尻を隠した。まるで彼の腕にすっぽりと包み込まれているような、不思議な安心感。

(……すごい。拓人の匂いがする)

フードの付け根、首元のあたりから、昨夜ずっと感じていた彼の匂いが立ち上がってくる。
それは、仕事用の凛とした香水の香りではなく、もっと甘くて、体温に近い、彼という人間の「素」の匂いだ。

うさみは、彼が淹れてくれたコーヒーの残りを温め直し、大きなソファに深く腰を下ろした。
パーカーに顔を埋めると、生地の柔らかさと共に、拓人の存在が全身に染み込んでくる。

「初めて、ここに来れたんだよね……」

19年というキャリアを積み上げ、危機管理を徹底してきた彼が、自分をこの場所に招いてくれた意味。
ただの「遊び」ではない、彼なりの覚悟を、このパーカーの重みの中に感じる。

テレビの中では何万人を魅了するアイドルが、この家では、このパーカーを着て、ごく普通の男として呼吸し、生活している。その一部を今、自分が共有しているという事実が、胸を熱くさせた。
ふいに、テーブルの上のスマホが震える。

『ちゃんと休めてる? パーカー、似合ってそう』

短いメッセージに思わず笑みがこぼれる。彼には、うさみが今、彼の「抜け殻」に包まれて幸せを噛み締めていることなんて、とっくにお見通しなのかもしれない。
パーカーの長い袖でスマホを握りしめ、返信を打った。

『拓人の匂いに包まれて、最高の休みだよ。仕事、頑張ってね』

窓の外には、冬の穏やかな空が広がっている。
彼がいないはずの部屋で、彼が残した匂い溺れながら、幸せなため息をついた。





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