第5章 I want your flavor.
二人がけのソファ。
さっきまで手にしていたグラスはもうテーブルの上で結露し、溶け出した氷が微かな音を立てている。けれど、今の二人にはその音さえも、静寂を切り裂くほど鮮明に響いていた。
「……うさみ」
拓人が名前を呼ぶ。
その一言だけで、空気が甘く痺れる。
彼は黙り込んだまま、じっとうさみの瞳を見つめた。その「目」で見つめられたら、もう逃げられない。
肌に触れた手のひらから伝わる彼の熱が、うさみの輪郭を溶かしていく。
彼がゆっくりと立ち上がり、うさみの手を引いて寝室へと向かう。
外の音は一切届かない。世界には、二人の足音と、重なり合う吐息しかない。
そっと肩を押し倒し、彼はうさみをシーツの上に沈めた。
微かに軋むベッドの音が、静かな部屋に二人の存在を刻みつける。
拓人は腕を突き、うさみを閉じ込めるようにして覆いかぶさった。彼のシャツの隙間から溢れ出す香りが、うさみの理性を奪っていく。
「誰も知らないおまえを、俺だけが知ってたい。……もっと、ワガママになってもいい?」
拓人の指先がうさみの髪を掬い、耳元をなぞり、そのまま唇へと降りてくる。
何度も、何度も、確かめるように重ねられる唇。孤独を打ち消すようなその熱量に、うさみは彼の首筋に強くしがみついた。
「名前……呼んで」
「……拓人、……」
自分の名前を呼ぶうさみの声を聞き、拓人は満足げに、でもどこか切なそうに目を細めた。
指先を深く絡め、肌を重ね、お互いの境界線が消えていく。
「このまま……夜が明けるまで、離さないから」
19年という長い月日、第一線で戦い続けてきた彼が、「壊れるほど抱きしめたい」相手。
二人は醒めない夢を見るように、夜の深淵へと溶け込んでいった。