第5章 I want your flavor.
リビングへ移動しても、拓人は大きな照明を点けようとはしなかった。
間接照明が作り出す琥珀色の影。
彼はサイドボードから琥珀色の液体が入った瓶を出すと、氷の入った2つのグラスに注いだ。
氷がグラスに当たる、カランという硬質な音だけが静寂に響く。
「はい。……少しだけ、度数強いけど大丈夫?」
うさみが差し出されたグラスを受け取ると、拓人もうさみの隣、逃げられないほど近い距離に腰を下ろした。
彼が動くたびに、スウェットの奥からふわりと漂う、サンダルウッドと体温が混ざり合ったような、官能的な『Flavor』。
「……拓人の匂い、する」
「ん? 香水?……それとも、俺自身の匂い?」
拓人は悪戯っぽく目を細めると、手にあるグラスをテーブルに置き、彼女の手首をそっと掴んだ。
親指の腹で、脈打つ箇所をゆっくりとなぞる。
「うさみのここからも、俺と同じ匂いがする。……さっき車の中でずっと触れてたからかも」
歌詞の一節をなぞるように、彼はうさみの指先を一つずつ、確かめるように自分の唇に寄せていく。
急ぐような無粋な真似はしない。ずっと人に見せない努力を積み重ねてきた彼だからこそ、この「見せない時間」の贅沢さを誰よりも知っている。
ーーーコトッ
うさみがグラスを置くのを待っていたかのように、拓人の腕が彼女の細い腰を抱き寄せ、膝の上に引き上げた。
密着した体温。お互いの吐息が、重なり合うたびに熱を帯びていく。
「……朝まで離さないけどいいよな」
彼はうさみの項に鼻先を寄せ、深く息を吐き出した。
首筋から肩口へ、吸い付くような優しいキスを落としながら、彼の手はゆっくりと、まるで極上の絹を扱うような手つきで、うさみの服の隙間へと滑り込んでいく。
「全部俺のものだって、体に覚えさせて」
甘い毒のような言葉が、耳元で溶ける。
それはまさに、一度知ってしまえば抜け出せない、彼だけの濃密な『Flavor』。