第5章 I want your flavor.
「コーヒー、一口も飲んでないのに冷たくなったね」
上気した頬を冷まそうと、うさみが小さく笑うと、拓人も少し乱れた髪をかき上げながら、照れたように、でも満足げに口角を上げた。
「……本当だな。」
再びエンジンをかけ、SUVは深夜の首都高へと滑り出す。
C1の環状線を流しながら、流れる夜景を横目に二人は静かに余韻に浸った。拓人は片手でハンドルを握り、もう片方の手は片時も離さずうさみの手を握りしめている。
やがて車は、うさみの住むマンションの前に静かに停まった。
「……着いちゃったね。送ってくれてありがとう」
名残惜しさを隠してドアノブに手をかけると、拓人の手がそれを制するように、ふわりとうさみの腕を掴んだ。
「待って」
その声は、さっきまでの穏やかなものとは違い、少しだけ低く、焦れったい熱を含んでいる。
キャリアが育んだ自制心と、一人の男としての本能が、暗い車内で静かに火花を散らしていた。
「……今日さ、このままバイバイするつもりだったんだけど。一緒にいたら、余計に離したくなくなった」
拓人はうさみの腕を引くと、首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。
「……うさみ、明日、朝ゆっくりなんだっけ?」
「そうだね、明日は休み……」
「そっか」
拓人は顔を上げると、真っ直ぐにうさみの瞳を見つめた。
その瞳は、トップアイドルとしての「完璧な顔」ではなく、一人の女性を心から求めている一人の男の顔だった。
「……ウチ、来る? 誰にも見られないように、完璧に連れてくから」
「自分の家」ではなく「俺の家(ウチ)」へ。
徹底して私生活を秘匿し、うさみを守るために彼女の家でしか会わなかった彼が、初めて漏らした甘い共犯への誘い。
「……いいの?」
「うさみなら、いい。……っていうか、お前じゃないとダメ。……無理?」
少しだけ不安そうに首を傾げる彼に、うさみの胸は強く締め付けられた。