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彼はアイドル。

第5章 I want your flavor.











「……誰もいないね、ここなら」

周囲を360度確認する。ドライブレコーダーの録画をオフにし、スマホの通知も切った。

「うさみ、一瞬だけ。……外、出る?」

拓人は先に車を降り、うさみを助手席からエスコートした。

冬の海風が吹きつけ、彼女が少し身をすくめると、彼は自分の大きなコートの裾を広げ、うさみを包み込むようにして背後に立った。

「寒い? ……でも、綺麗だね」

潮騒の音だけが響く暗闇。
数万人の前に立つ彼が、今、たった一人の女性と一緒に、ただの「冬の海」を見ている。
それは彼にとって、どんなステージのスポットライトよりも守るべき、静かな自由だった。






「ね、拓人。……もう戻ろ? 誰かに見られたら大変」

「……だな。お前に風邪引かせるわけにもいかないし」

名残惜しそうに、でも決断は早く。
車に戻ると、拓人は再びハンドルを握り、首都高の入り口へと車を走らせた。

「帰りは、C1(都心環状線)流して帰るか。うさみ、東京の夜景好きだろ?」

滑らかに加速するSUV。
拓人は左手でうさみの手をぎゅっと握り、指先でその甲をなぞった。

「仕事の話はできないし、聞かせられないことも多いけど。……こうして同じ景色見てる時間は、嘘じゃないから」

フロントガラスに映る、東京タワーやビル群の光。
秘密を抱えたまま走る深夜のドライブは、二人だけの鼓動を加速させていく。




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