第3章 至近距離で拝む自担の顔。
「消してよ……ほんとに、お願い」
うさみの声は、さっきまでの冗談めいたトーンではなく、少しだけ本気で、縋るような響きを帯びていた。
拓人の手からスマホを取り返そうと伸ばした手が、空中で力なく止まる。
「……うさみ?」
「……だって、私、もう若くないし。……寝顔なんて、きっと酷い顔してたでしょ。目の下のクマとか、口角とか……。てらは毎日、綺麗な人たちに囲まれてるんだから。そんなの見られたくないよ」
うさみは俯いて、自分の爪先をじっと見つめた。
自信がある部分もたくさんある。けれど、年下の、日本中が憧れる「寺西拓人」の隣にいる時だけは、どうしても自分のパーツや年齢が、隠しきれないコンプレックスとして顔を出してしまう。
静かな時間が流れる。
拓人は、スマホを握ったまま、少しだけ驚いたようにうさみを見つめていた。
「……うさみ、こっち見て」
「……やだ」
「いいから。……拓人って呼んだら、消してあげるって言っただろ。……顔、見せて?」
拓人はうさみの顎を優しく持ち上げ、自分の方へと向かせた。
夕闇の混じる青い光の中で、彼女の瞳が少しだけ潤んでいる。
「……あのさ。うさみが、何を気にしてるか、なんとなくわかるけど。……そんなの、一ミリも関係ないんだわ」
拓人は、スマホの画面をうさみの前に差し出した。
そこに写っていたのは、確かに完璧なライティングでも、プロのメイクでもない、ただのうさみの寝顔。
けれど、そこには拓人にしか向けられない、魂が抜けたような深い安心感と、どこか幼い無垢さがあった。