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彼はアイドル。

第3章 至近距離で拝む自担の顔。



寝ぼけ眼で拓人の胸元に顔を寄せると、そこから伝わってくる彼の心臓の音が、少しだけ速いことに気づいた。

「……拓人、心臓、ドキドキしてる?」

「当たり前だろ。……急に倒れてくるからびっくりしたし。……あと、……寝顔が無防備。」

拓人はそう言って、うさみの鼻先を指でピン、と弾いた。
うさみは恥ずかしさで一気に目が覚め、慌てて彼の腕の中から脱出しようとする。

「……うわ、見られた。……最悪、変な顔してなかった?」

「してた。……『美味しいにし』って顔してた」

「嘘だ!! そんな顔しないもん!」

「あはは、嘘だよ。……でも、可愛かったのは本当」

拓人はそう言って、ソファに放り出していたスマホを彼女の目の前でこれ見よがしに振ってみせた。

「……これ、今のうさみの寝顔。……一生の宝物にするわ」

「ちょっと!! 消して! 今すぐ消して!!」

「やーだね。……これは、俺にだけ許された『独占にし』だから。……消して欲しければ、夜ご飯、俺の好きなもん作ってよ」

夕暮れの薄暗い部屋で、追いかけっこをするような二人の笑い声が響く。
長いキャリアも、トップアイドルの看板も、この部屋の中では何の意味も持たない。
ただの、少し意地悪な彼氏と、彼に翻弄される愛おしい彼女。

「……もう……!!」

「……はいはい。……お腹空いた。……拓人って呼んでくれたら、写真、一枚だけ消してあげてもいいよ?」

「何枚撮ったの!」

結局、最後には「名前呼び」を要求してくる彼の図々しさに、うさみは呆れながらも、その温かさに包まれている幸せを噛み締めていた。

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