第3章 至近距離で拝む自担の顔。
「……ホクロそんなに珍しい? さっきから視線で穴が空くかと思ったわ」
「……っ、見てたの!? 全部!?」
「全部。……『唇がどうこう』とか、心の声がダダ漏れ。……オタクの時の顔、隠せてないよ」
「……っ、もう無理、死ぬ……!」
恥ずかしさのあまり両手で顔を覆おうとするが、拓人はそれを許さない。彼はうさみの手を自分の首筋に回させると、そのままグイッと自分の方へ引き寄せた。
「……うさみ」
「……何、最低、意地悪にし……!」
「あはは、ここで『にし』使うなよ。……俺を観察して楽しんでたんだから、今度は俺がうさみを観察する番。……至近距離で、うさみの顔が真っ赤になっていくところ、じっくり拝ませろ」
そう言って、彼は今度は自分が「観察者」になるように、うさみの瞳をじっと覗き込んだ。
「寝たふり」という最高の演技でうさみのガードを解かせ、一気に主導権を奪い去る。
これが、19年芸能界で揉まれてきた、そしてうさみを愛してやまない「寺西拓人」のやり方。
「……今の顔、ブログのタイトルにするなら……『照れにし』、かな。……あ、これは流石にうさみに怒られるか」
「当たり前でしょ!!」
夕暮れ前のリビング。
「寝たふり」の魔法が解けた後は、さっきまでの静寂が嘘のような、騒がしくて甘い、二人だけの時間が再開された。
拓人の「寝たふり」という渾身の意地悪(?)から少し経ち、二人はソファでゆったりとくつろいでいた。
結局、拓人はうさみの膝を枕にするポジションに戻り、うさみはスマホをいじる彼の髪を、指先で優しく梳いている。
「……ねえ、うさみ。さっきの罰として、今日の夜ご飯、うさみが作ってよ」
「はぁ? 私が散々恥ずかしい思いしたんだから、拓人が作るところでしょ」
「あー、頭洗ってくれるなら考えてもいい」
「都合良すぎない!?」
口では文句を言いながらも、うさみの指は彼の柔らかい髪を梳くのを止めない。
その温もりと、彼の規則正しい呼吸音。そして、部屋に満ちる、二人だけの穏やかな空気。
(……この人が、私の膝の上にいるんだ。……本当に、不思議)