第1章 彼氏は自担です。
彼の言葉には、単なる慰めではない、自分自身が何度も壁を乗り越えてきた者だけが持つ静かな説得力がある。
ステージや映像の中で、誰よりも完璧なパフォーマンスを見せる彼。その影で、どれだけの葛藤を飲み込み、喉を枯らし、ステップを踏んできたか。
うさみは、その横顔をじっと見つめた。
少年のような無邪気さを残しながらも、その瞳には、自分の足で人生を選び取ってきた大人の男の覚悟が宿っている。
「……てらは、強いね」
「強くねーよ。ただ、お前がこうして『ここ』を守ってくれてるから、外で格好つけられるだけ」
拓人は空いた手で、うさみの自由な方の手をそっと包み込んだ。
彼の掌は、ダンスや殺陣で硬くなった節々があり、温かくて、少しだけ無骨だ。
「この部屋に来る時、いつも思うんだよね。……ああ、今日もうさみが待っててくれる場所があるって」
彼は、うさみがこの部屋を選ぶ時にどれだけ悩み、どれだけ自分の存在を優先してくれたかを知っている。
「背伸び」だなんてうさみは言うけれど、拓人にとっては、この部屋のすべてが彼女の愛情そのものに見えていた。
「……だからさ。仕事のミスくらい、俺に預けなよ。お前のキャリアが今日一日でダメになるわけじゃないだろ?」
拓人の指先が、うさみの手の甲をゆっくりと、慈しむようになぞる。
その一定のリズムが、波立ったうさみの心を凪にしていく。
「……ありがとう、てら」
「ん。……その代わり、今夜はもう仕事の話、禁止な」
彼は少しだけ意地悪そうに目を細めると、うさみの持っていたカップをテーブルに置き、彼女の体をそのままゆっくりとソファに沈ませた。
「……ゆっくり、しよ。……俺のことも、ちゃんと見て」
至近距離で見つめ合う、その熱。
アイドルの寺西拓人でも、俳優の寺西拓人でもない、ただの一人の男としての彼が、うさみの心の奥底まで踏み込んでこようとしていた。