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彼はアイドル。

第2章 お手振り王子の誕生日。





拓人は、いつもの「安定の寺西拓人」だった。

媚びるような過剰なファンサはしない。一人一人の目を見るように、丁寧に、慈しむように、優しく右手を振って通り過ぎていく。

その彼が、うさみの正面、数メートルの距離まで差し掛かった時。

拓人の視線が、ふっとうさみを捉えた。

「…………!」

うさみの呼吸が止まる。
拓人は、周囲のファンに向かって優しくお手振りを続けるリズムを一切崩さない。
プロのアイドルとして、完璧な振る舞いのまま。

けれど、うさみと目が合ったその一瞬だけ。
彼は、うさみにしか分からないほど、口角を「ニヤリ」と深く上げた。

その顔は、「見つけた」という確信と、「俺、かっこいいだろ?」という最上級のドヤ顔、そして深夜に見せたあの甘い独占欲が混ざり合った、破壊力抜群の表情だった。

「……っ!!」

周囲のファンが、悲鳴を上げて崩れ落ちるのが分かった。
「今の見た!?」「今のてらの顔、ヤバすぎない!?」「死ぬ、死ぬ!!」

彼はそのまま、何事もなかったかのように、また穏やかな「お手振り王子」に戻って、次のブロックへと歩いていく。
数万人の前で、誰にもバレないように、でも確実にうさみだけに送られた「31歳、最初のファンサ」。

(……なにあれ。……反則……!)

熱くなった顔をペンライトで隠すようにして、再びステージへと視線を戻した。
自分の自担は、世界一罪な男で、そして世界一かっこいい。

その後もうさみは、声が枯れるまで叫び、水色の海の一部となって、彼の新しい1年の始まりを全身で浴び続けた。










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