第2章 お手振り王子の誕生日。
2025年12月31日、22時。東京ドーム。
数万人の熱気に包まれた会場は、開演を待つファンの期待感で、空気が震えるような独特の緊張感に満ちていた。
自分の手にあるチケットに複雑に書かれた席番号。
メインステージからは離れているものの、センターステージ方行にくれば視界には入る距離。
(……嘘、アリーナ。……近すぎる……!)
関係者席ならもっと落ち着いて見られたかもしれない。でも、自分の力で、一人のファンとしてこの景色の中にいたかった。この業界に身を置きながらも、自担の誕生日に、自担の新しいグループの門出を「客席」から祝えることが、今のうさみには何よりも誇らしかった。
周りを見渡すと、拓人のメンバーカラーである「水色」を身に纏ったファンがちらほらと見える。
(……愛されてるなぁ)
うさみはそっと自分の胸に抱えたtimeleszのペンライトを握りしめた。今はまだ消えているけれど、これが点灯する瞬間、自分もその「水色の海」の一部になる。
スマホを取り出し、素早く席番号とメッセージを打ち込む。
『水色のペンラ持ってるから。……31歳、最初の仕事、しっかり目に焼き付けるね』
本番直前の彼がこれを見るかは分からない。けれど、あの「30分充電」をした後の彼なら、きっとこの熱気の中から自分を見つけ出してくれる……そんな根拠のない、でも確かな予感があった。
「あ、もうすぐ始まる……!」
隣のファンが声を上げた。会場の照明がゆっくりと落ちていく。
うさみは深く息を吸い込み、ペンライトのスイッチを入れた。
パッと灯る、鮮やかな水色の光。
同じ時代を駆け抜けてきた戦友であり、最愛の恋人。
けれど今、この瞬間だけは、うさみは「橋口うさみ」ではなく、世界で一番彼を想う一人のファンになった。
ドームに地鳴りのような歓声が響き渡る。
メインステージの巨大なスクリーンに、timeleszのロゴが躍る。
心臓の鼓動が、オープニングの重低音とリンクして激しく打ち鳴らされた。
(拓人。……思いっきり、輝いて!)
ペンライトを胸の位置で握りしめ、うさみはステージへと視線を固定した。
光の渦の中、ついに「31歳の寺西拓人」が姿を現す――。