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彼はアイドル。

第2章 お手振り王子の誕生日。





「……じゃあ、あと30分だけ。30分だけここで目を閉じて、佳奈の匂い充電させて。そしたら、ちゃんと自分の家に帰って、プロの寺西拓人に戻るから」

「……30分だけだよ」

「……30分経ったら、絶対起こしてね」

拓人はそう言うと、うさみの膝を枕にするようにして横になった。
プレゼントのルームウェアを毛布がわりに胸元に抱きしめて、本当に安心したように目を閉じる。





静かなリビング。
うさみは、自分の膝の上で寝息を立て始めた「31歳の主役」の顔をじっと見つめていた。
数時間後には、数万人の前で、誰よりも輝く存在になる人。
でも、今この瞬間だけは、自分だけのもの。

(……最高の誕生日、最高のステージにしてね)

うさみは、彼を起こさないようにそっと頭を撫で続けながら、彼を送り出すまでの「最後のご褒美」のような時間を、一秒一秒、大切に噛み締めていた。





約束の30分。
スマホのアラームが鳴る前に、そっと指で音を止めた。膝の上では、31歳になりたての男が、プレゼントのルームウェアをギュッと抱きしめたまま、本当に深い眠りに落ちている。

(……あー、もう。本当に起こしたくない……)

でも、これが彼の仕事への愛。うさみは心を鬼にして、彼の肩を優しく揺らした。

「……てら。拓人、起きて。30分経ったよ」

「……んんぅ……」

拓人は眉間に少しシワを寄せて、うさみの腰をギュッと抱きしめ直した。顔をうさみのお腹のあたりに埋めて、完全に拒絶の構えだ。

「拓人、お家帰るんでしょ? ほら、頑張って」

「……むり……。今、人生で一番深い睡眠入った……。あと、10年寝かせて……」

「長すぎ! 10年経ったら、二人ともすごい年齢になっちゃうから。ほら、起きて!」



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