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彼はアイドル。

第2章 お手振り王子の誕生日。




31歳になったばかりの拓人は、プレゼントのルームウェアを膝に置いたまま、ペアマグで淹れたお茶をゆっくりと飲んでいた。
幸せな沈黙。けれど、うさみの頭の中では、仕事のプロとしての冷静なタイマーが動いている。

「……ねえ、拓人。……そろそろ、自分の家に帰って整えた方がいいんじゃない?」

「……え、もう?」

拓人が、マグカップを持ったまま目を見開いてうさみを見る。その顔は、完全に「帰りたくないモード」の子供のような、切ない表情だ。

「だって、これから仮眠して、お風呂入って、喉のケアもして……ドームに入るまで数時間しかないでしょ? 自分の家の方が準備しやすいだろうし、少しでも休んだほうがいい」

けれど、拓人はマグカップをテーブルに置くと、ソファに深く沈み込み、彼女の腰に腕を回して自分の方へ引き寄せた。

「……正論。……正論すぎて、ぐうの音も出ないわ」

「でしょ。」

「でもさぁ……。自分の家で一人で加湿器の音聞いてるより、ここでうさみの体温感じてる方が、俺、何倍も回復するんだけどな。……31歳になりたての俺を、そんなにすぐ追い出す?」

拓人はうさみの肩に顔を埋め、わざとらしく深く溜息をついた。
甘い柔軟剤の香りと、彼の少し熱い体温。

「……追い出すなんて言ってないでしょ。心配なの。大事な、timeleszとしての初めてのカウコンなんだから。最高の状態でステージに立ってほしい」

うさみが彼の髪を優しく撫でると、拓人は顔を上げ、少しだけ真剣な瞳で彼女を見つめた。

「……わかってる。わかってるよ。うさみが俺の仕事を一番に考えてくれてること。……ありがとね」

拓人はそう言うと、うさみの手を握り、その手の甲に優しくキスをした。







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