第2章 お手振り王子の誕生日。
拓人が顔を上げると、そこにはいつものアイドルフェイスはなく、少しだけ潤んだ瞳をした、一人の男の顔があった。
「え……、もちろんそうだけど」
「……あー、もう。……最高すぎるでしょ」
拓人はルームウェアを一度脇に置くと、うさみの体をそのままソファへ押し倒すようにして、強く、強く抱きしめた。
「……高い時計とか、ブランドの服とか、そういうのは仕事してればいくらでも手に入るよ。……でもさ、……『うさみの家の、俺のマグカップ』とか、『俺のためだけのルームウェア』なんて、世界中どこ探しても、うさみところにしかないじゃん。……これが、一番欲しかった」
拓人の顔が首筋に埋まり、彼の熱い吐息が肌をくすぐる。
31歳の誕生日を迎える直前の、数分間。
「……ねえ、これ。……今日、カウコン終わってから着ていい? ……それまで、これで充電させて」
拓人はそう言うと、うさみの額に何度も深く、誓うようなキスを落とした。
その時、壁の時計の針が、重なるようにして頂点を指す。
「…………。おめでとう、拓人。……31歳」
「…………。ありがとう、うさみ。……31歳の俺、一番にうさみにもらわれちゃったわ」
拓人は満足そうに笑うと、今度はのうさみ唇を、逃がさないように深く塞いだ。
ペアのマグカップが、テーブルの上で二人の幸せな影を映している。
外は冷え込む大晦日の夜。けれど、この部屋の中だけは、春のような、あるいはそれよりももっと熱い、二人の新しい1年が始まろうとしていた。
「……もうちょっとだけ、このままで。……出発まで、あと少しだけ……」
拓人は彼女を抱いたまま、離れようとしない。
それは、これから数万人の前に立つアイドルとしての覚悟を決めるための、彼にとっての聖なる儀式のようだった。