第2章 お手振り王子の誕生日。
リビングには小さなケーキと、少し贅沢なシャンパン。
拓人は、カウコンの最終リハーサルを終えて滑り込みでうさみの家へやってきた。
「……ふぅ。間に合ったー! 31歳、危うく車の中で迎えるところだったわ」
拓人はソファにドサッと座る。その顔には疲れもあるけれど、うさみの顔を見た安心感で、一気に「彼氏」の表情に戻っている。
テレビは消され、加湿器の柔らかな蒸気が漂っている。
リハーサルを終えてうさみの家に駆け込んだ拓人は、ようやく一息ついたように、うさみが淹れた温かいハーブティーを口にした。
「……ふぅ。……落ち着く。……明日、ドームに数万人いるなんて、今は信じられないくらい静かだね」
「お疲れ様。……明日、31歳になっちゃうね」
うさみが隣に座ると、拓人は吸い寄せられるように彼女の肩に頭を預けてきた。
178cmの大きな体が、今はうさみの温もりだけを求めている。
「ねえ、ちょっと早いけど、これ、受け取ってほしい」
少し緊張した面持ちで差し出したのは、派手さはないけれど、丁寧に結ばれたリボンが印象的な箱だった。
「え……。開けていい?」
「……いいよ。でも、あんまり期待しないでね。何でも自分で買えちゃうだろうから、すごく悩んだんだけど…」
不安げに見守る中、拓人は指先で慎重にリボンを解いた。
中から現れたのは、うさみが吟味し、触り心地で選んだ、チャコールグレーの上質なルームウェアとスリッパ。そして、その奥から出てきた、ぽってりと丸みを帯びたペアマグカップ。
「…………」
「……高いものは自分で買えるし、何がいいか分からなくて。それ、拓人がここに来た時に、リラックスしてほしくて選んだんだけど。ちょっと、普通すぎたかな」
拓人は手を止め、ルームウェアの生地をそっと指先でなぞった。
「……てら?」
「…………。……これさ。……俺に『これからもここに帰ってきていいよ』って言ってくれてるって、思っていいの?」