第14章 特別な言葉
あなたが静かになったことを不思議に思ったヴィクトルは、展望台でパンフレットをポケットに押し込んで振り向く。
彼はそこにあるはずの物が無くなったことに気づき、血相を変えた。
しかし同時にあなたがその大事な物を手にしている姿を見て、さらに狼狽した。
「…………あっ!!」
ヴィクトルは思わず声を出して硬直する。
あなたは彼の目をゆっくり見つめた。
二人とも、言葉がすぐに出てこなかった。
「あっ……これ、ヴィクトルのポケットから落ちて……」
「……そ、そうなんだ。それは俺が、持ってきたもので……」
これほど彼が思考能力を一瞬で失った姿は稀である。自分の計画が無に帰してしまったと思われたからだ。
でもあなたは、まったく違う反応をした。
ずっと胸にあった、不安や期待が入り混じった感情が、自然とあふれていく。
視線を落とした先の両手には、白いリボンがかかった淡いピンクの小さな箱。
「私の勘違いじゃなかったから、もしかして、これは……」
「勘違いじゃないさ!」
ヴィクトルはとっさにあなたの正面に立った。
両手を下から包みこんできて、彼の緊張と温もりが伝わる。
黒い瞳を見上げると、もう彼は覚悟を決めた眼差しをしていた。
「君に渡そうと思って、持ってたんだ。こんな形になると思ってなかったけど――でも、俺の気持ちを真剣に伝えたくて」
あなたの瞳がじわりと潤んでいく。
雪山の広大な景色も周りの喧騒も耳に入らず、二人だけの世界だった。
「どんな形でもいいよ、ヴィクトル」
「……本当? じゃあ伝えさせて、名無しちゃん」
両手に熱く力がこめられる。
「君のことを心から愛している。俺が想うのは一生君ひとりだ。許されるなら、このままずっとそばにいさせてほしい。君を絶対に幸せにする」
そう言って彼はその場にひざまずく。
まるで己の愛と忠誠を誓うように、ヴィクトルがあなただけをまっすぐ瞳に映した。
「名無しちゃん、俺と結婚してくれますか?」
その言葉を聞いた瞬間、あなたの瞳からこらえきれずに涙があふれだした。
それは嬉しさと安心の両方の気持ちだった。