第14章 特別な言葉
その後、二人は横長の柵づたいに、下からでは到底眺められない壮大な景観を望んだ。
連なる雪山の純白は吸い込まれそうで、冷たい風が赤い鼻を撫で、自分がいかにちっぽけな存在なのかと思い知る瞬間だった。
「わぁ……綺麗だなぁ。ここまで来た甲斐あったな。私、支えられてただけだけど」
「ふふっ、そんなことないよ。でもほんと綺麗だな。素晴らしい眺めだ」
隣のヴィクトルの横顔をそっと見上げる。
切れ長の瞳が細められ、景色に見入っている。
――ああ、やっぱり好きだな。
あなたは深くそう感じた。
同じ景色を眺めているとき、二人で同じ感動に触れているとき、とくにそう思う。
隣がピカピカと光ってるような、じわりとした温もりが流れてくるような、不思議な繋がり。
彼はそういう特別な存在だった。
あなたの視線に気づく前に、彼の表情が少し真剣なものに変わり、正面をじっと見つめている。
自分が見ていていつ気づくかなと、わざと逸らさずに観察していた。
すると彼はダウンのポケットに片手を入れて、もう一度外に出す。
なぜか少し落ち着かない様子だった。
「ヴィクトル、寒い? 中に入る?」
「いや、ううん。あ、やっぱり入ろうか。寒いよね」
彼は一瞬ためらったが、頬が赤らんでいるあなたを見ると、視線を屋内の広いロッジに向けた。
「よし行こう。何飲む? 名無しちゃん」
「ホットチョコレートにしようかな。あっ、あっちにも見るとこあるみたいだよ。お店とか」
「そうなんだよね、ちょっと待って。さっきもらった案内書に――」
少し前を行くヴィクトルがポケットを探り、中からミニパンフレットを出したとき、ぽろっと何かが落ちた。
彼は気づかずに少し先で立ち止まり、地図に視線を落としている。
あなたはすぐにそれを拾ったが、手の中でもう一度見て動きが止まってしまった。
それは、白いリボンがかけられた淡いピンクの四角い箱だった。
「…………こ、これって……」
昨日誕生日プレゼントのネックレスをもらったばかりだが、これも明らかに誰かへの贈り物に見える。
そしてその誰かは、あなたしかいなかった。