第14章 特別な言葉
「すみません、僕の彼女が揺れを少し怖がっていて。ちょっとだけお願いしてもいいですか?」
彼は柔らかい表情で夫婦にこっそり頼む。すると女性のほうは明らかに彼を見て驚き、頬を赤らめて笑みを浮かべた。
「あっはい。もちろん」
そして彼女はすぐに息子の名前を呼び、そばへ引き寄せた。
男性のほうはあなたを見やって両目をぱちりとやって微笑む。
なんなんだ。
一瞬そう思いつつもその夫婦に、なにより声をかけてくれたヴィクトルに最大の感謝の念がわいた。
自分は本来、何もアクションを起こさないタイプである。
でも彼はあなたのためとはいえ、はっきり申し出てくれた。見た目よりも簡単に出来ることじゃない。
「――ありがとうヴィクトル、ごめんね」
「いやいや、大丈夫だよ」
彼は戻ってきて、またすぐに何もなかったようにそばにいてくれた。
夫婦は息子に何か話しかけ、もう大人しくしてくれるものだと思ったのだが、なんとその子はあなたの元にやってきた。
「んっ? どうしたの?」
あなたが素で聞き返すと、少年は無邪気な笑みを浮かべて何故か二人の間に座ってきた。
「ちょっ」
ヴィクトルが思わず声を出したが少年はかまわず手にあったものを差し出す。
「はい、これあげる」
まだ低学年の子がくれたのは包み紙のキャンディだった。
あなたは目を白黒させたが、優しくはにかんで「ありがとう」と受け取った。
さっきのやり取りを想像するに、母親から説明されてお詫びの印なのかお菓子を渡してくれたのだろう。
同じくニット帽の男の子は今は大人しく真ん中に座っている。
若干ヴィクトルの複雑そうな視線が面白く感じたが、あなたは子供相手に微笑ましく思っていた。
騒がしかったけど素直で良い子そうだな。
するとその子は急にヴィクトルに振り向く。
「ねえおじさん」
「なんだい?」
「お姉さんの旦那さん?」
「えっ」
周りはそれぞれ話に盛り上がり、誰も3人のことを気に留めていない。
しかしあなた達二人の鼓動は一気に跳ね上がった。