第14章 特別な言葉
――え。めちゃくちゃ怖いんですけど。
高所恐怖症などなかったはずなのだが、思えばこういう乗り物は子どもの頃に乗ったきりで、成長してからほとんど機会がなかった。
「――あ、あそこ泊まったところだね。見てみて名無しちゃん」
ヴィクトルがまるで少年のように珍しくテンションが上がっている。高い所が好きらしい。
そういえば、彼は学生時代にバンジージャンプも男友達とやったことがあると言っていた。
「ほっ本当だなぁー。あぁー戻りたいぐらい、ははっ……」
あなたはとても恐怖を感じている。でも楽しんでいる彼に水を差したくない。
だから一生懸命平気なフリをしようとした。
しかしヴィクトルは静かになったあなたの様子に気づいた。
「ん? 大丈夫名無しちゃん、怖い?」
「ううんっ。全然。でも手繋ぎたいな」
あなたは早口で言い、彼の腕にさっと腕を絡めた。
少し気持ちが落ち着くかと思ったが、ヴィクトルはあなたの手を優しく握ると、そっとその場から下がって後ろの席に誘導した。
「ヴィクトル、見てていいよ。私大丈夫だから」
「ううん、十分見たよ。ここなら安全だよ、もうすぐ着くからね。一緒にいよう」
彼はにこりと穏やかに言ってあなたの手をぎゅっと握った。
――優しい。
あなたは素直に嬉しくなり、気分が和らいでいく。
その座席からは空しか見えないし、彼の顔だけに集中して、気を紛らすように明るくお喋りをした。
しかしこのロープウェーは長く、まだ半分ぐらいある。そこでもうひとつ事件が起きた。
二人組や友人同士以外にも、家族連れが何組か乗っていたのだが、一人の男の子が中で動き回ったり走り出したのだ。
乗り物は大きく頑丈だが、揺れが伝わる。
あなたは気が気ではなくなってきた。
周囲の人も視線をやるが、親を含め注意する者はいない。
ちらっと家族を見ると夫婦は赤ん坊を抱えており、外の景色を見ていた。大人しい女の子もいる。
少し騒がしいだけの男の子だ、仕方ない――。
この国では人の躾に口出しするのは厳禁で、子供の遊びや自由も確立されている。
だから時折うんざりしたとしても、見過ごせばいいと考えたのだが。
突然ヴィクトルが立ち上がった。驚いて目で追うと、彼は目立たぬように夫婦に後ろから声をかける。
あなたが緊張して様子を伺っていると、彼はこんなことを言っていた。
