第13章 誕生日編
今日はあなたの誕生日だ。ヴィクトルの運転で山間部の雪道を走り、高級バンガローが点在する森に辿り着いた。
鬱蒼とした木々の中、雪がしとしと降り続いている。
整備された小道を進むと、しばらくして一軒の木造りの家が現れた。
まるで絵本の中から抜け出してきたような佇まいだ。
玄関を開けた瞬間、あなたは思わず声を上げた。
「うわぁ、すごい! 本当にこんなところに泊まれるの?」
「もちろん。名無しちゃん、気に入った?」
「うん!」
吹き抜けの天井と温もりのあるリビング。
正面はガラス張りで、雪景色が静かに広がっている。
降り積もる雪を眺めていると、胸の奥がじんわりと熱くなった。
暖炉にはオレンジの火が灯り、家具や装飾も冬らしく整えられている。
上質さがありながら、二人で過ごすのにちょうどいい落ち着いた空間だった。
荷物を運び二人で景色を眺めていると、時折彼はあなたのことを穏やかな眼差しで見つめる。
「ヴィクトル、ありがとう。こんな素敵なところに連れてきてくれて」
「いやいや、俺のほうこそありがとうね。特別な日を一緒に過ごしてくれて」
交りあう眼差しにはすでに熱く灯る想いが通っていた。
それはほどなくして甘い口づけに変わった。
南欧に位置する自国は冬でもわりと暖かく、雪もめったに降らない珍しいものだ。
そんな中、あなたはふと雪が見たいなと言ってしまった。
今思えば難しい願いだったのだが、ヴィクトルは車を数時間走らせ国境をまたがる山脈まで連れてきて、それを叶えてくれた。
ここは森の中にひっそりと建ち並ぶリゾート地で、秘められた空間が美しい。
明日は帰る前に周辺を観光し、今日はこのバンガローでゆったり過ごそうと話していた。
「ねえねえ、ロフトまであるよ。ここで寝ようかな〜」
下には立派な主寝室があるのに、短いはしごを登ったあなたは、はしゃいでベッドの端で飛び跳ねた。
もうすでに帰りたくない気持ちになってくる。ヴィクトルと一緒にいるからだ。
気づくと彼がそばに佇んでいた。
思慮深く顎を触り、なにやら色気のある目つきで眺めている。
「確かに高いところでドキドキするね。でも名無しちゃん、狭いよ。俺が少しでも動いたら、君が下に落ちちゃうかも」
にやりと大人びた文脈にあなたはよからぬことを考え、ボッと顔を赤くしてしまった。
