第12章 語り合い
彼は親友にこれまでの経緯を簡単に話していた。無論あなたとの詳しい馴れそめは秘めたままだ。
父親に説明した時も考えたように、全てのことは二人だけの大切な思い出なのである。
「ああ、あの男か。今のところはな。何かしてきたら対処するよ」
「そうか、気をつけろよ」
「大丈夫だ。分かってる」
こうして男同士の真剣な話はひとまず区切りがついた。
彼らはその後も酒をもう一杯頼む。
「あ、そうだ。これ見てくれよ」
ヴィクトルが懐からスマホを明るく取り出した。
「すごく美味しそうだろう。この間名無しちゃんがお菓子を作ってくれたんだ」
突如見せられた画面には、可愛らしいマフィンがちょこんと並んでいた。
フロリアンは思わず小さく吹き出す。
本当に親友は変わった。
こういう一見小さなことに幸せを見出す男ではなかった。ここ十数年は。
「ああそうか。お前が幸せなのはもうわかった」
「なんだよ。いつもうるさいぐらいなのに今日はやけに大人ぶってないか? ここが小洒落たバーだからか。いいか、俺らがいくら年取って金持って良いもの着てても精神的にはほぼ変わらないんだぞ。とくに男なんてもんはな」
「ああわかってるさ。お前の言う通りだ。だがな、俺は疲れてんだよ。家の家事に仕事に子供の寝かしつけ。お前も毎晩絵本を読んでみろ。二人とも違う趣味だから、違うものを複数回読んでるんだ。つねに寝不足だよ」
「そうか、幸せな悩みに聞こえるけどな」
「まあそうなんだけどな。俺は幸せだ」
フロリアンが隣をちらりと見やってグラスを一口で飲み切る。
「親友も最近幸せそうで余計幸せだ」
「ふっ。幸せって言葉をむやみに使うなよ。ガキみたいだぞ」
「お前に言われたくないな」
「なんだと?」
二人は笑いながらまた酒を酌み交わした。
その後ろ姿は少しだけ大学時代の二人を思わせるような光景だった。